多くの管理者は、挨拶や接遇は治療や看護とは別ものであり、「社会人の常識として当たり前に身につけなければならないスキルである」と考えていないでしょうか。

最近、『「闘争」としてのサービス』1)という非常に興味深い本と出合うことができました。この本で紹介されている興味深いところの2点について紹介します。

① 「おもてなしはみかえりを求めないもの」とよく言われるが、ホスピタリティは、ラテン語の語源から考えると「敵意があるかどうか分からない異邦人(hostls)との力関係を見極める対応」という意味であり、集団に属していない人に対する力関係を確認することである。

② サービス業で言われるおもてなし(挨拶、親しみのある話し方、信頼感のある外観、居心地のよい空間など)は、匿名同士もしくは1対多数を相手とする場合に、顧客が期待する事柄や、不測の行動をとる状況が発生しにくいようにするために作られた記号であるという。つまり、サービス業でのおもてなしは記号として作られた人間関係であり、本来の人間関係は喪失されており、疑似的な人間関係が構築されるように考えられたものである。

②の例として、ファストフード店の店員やエコノミークラス相当の客室乗務員が考えられます。これらの記号によるサービスは、すべてのサービス業のよきスタンダードとなり、消費者は笑顔で対応してもらうことが当たり前のことだと考えるようになっています。

そして、医療も一般サービス業と同じだと言われるようになった結果、疑問を感じながらサービス業の接遇応対スキルを受け入れる努力をしてきたのではないでしょうか。

しかし、医療の顧客である患者は、匿名同士や1対多数ではなく、それぞれの顔を持っています。そして、医療従事者として働くためには、ほかの職業よりも長い時間をかけて高度な専門技術を身につけ、就業後もスキルアップを継続しなければなりません。

 

「高度な専門スキルの提供」と「顔が見える看 護」に、不特定多数の人に効率よく対応するため に考え出された「おもてなしの記号」をそのまま 当てはめるのにそぐわないのではないでしょうか。 医療現場で「接遇が浸透しない」と感じる原因は そのことにあるのだと思います。

 

現場の看護師・職員の意識を知る

私たちは、2020年5月ごろから、現場の職 員に対して「患者の不平・不満、クレームに対す る意識調査」を始めました。現在までに約50病 院719人の看護職(看護師、看護補助者など)か ら回答を得ています(2021年3月末現在)。ア ンケートの目的は、COVID-19の感染拡大により患 者・家族と医療従事者、特に「看護師との関係が 大きく変わるのではないか」「どのように看護職 は対応しなければならないか」を考えるための情 報収集です。 次回は、このアンケートの結果をご紹介しながら、回答内容とそこから推測できることを紹介したいと思います。

  1) 「『闘争』としてのサービス」 (山内裕著 中央経済社) 出典及び引用 主任看護師style2021年7.8月号「主任・家族との良好な関係づく り」より

島川 久美子
島川 久美子

略歴
立教大学大学院卒業MBA取得。人材派遣会社立ち上げ、PC等教育フランチャイズ本部で人材育成に携わる。2002年4月株式会社ウィ・キャン(人材ビジネス・人材開発)、取締役に就任。1998年から、企業の立場で人材育成から病院での患者応対に関するコンサルティングを実施する。企業および医療機関における人材育成に関する企画・研修を実施。

著書
「医師・看護師が変える院内コミュニケーション」「毎日が輝くナースのマナー―決定版!患者接遇完璧マニュアル」できる看護主任・リーダーのコーチング術」共著(パル出版)他
「介護現場のクレーム対応の基本がわかる本 (New Health Care Management)」
「医療と企業経営 第6章」共著(学文社)
「ビジネスクリエーターと人材開発」共著(創成社)他