はじめにリーダーの役割には、「人を育てる」という使命があります。しかし、医療の現場のスタッフには、色々な人がいます。 もし、何かトラブルや実施した行動が違った場合には、スタッフに対して、行動について改善してほしい旨をリーダーとして適切に伝えることも必要です。 医療の現場では、「叱る」ことをしてはいけない、人を育てるには「褒める」と言われているところもあるようです。 しかし、「褒める」だけをリーダーが実施していたとすると、スタッフは褒められる行動しかしない結果になる可能性があります。特に、医療の現場は患者さんの生死にかかわる業務が多いため、時には「叱る」ことも、とても重要です。
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「叱ること」ではなく、「叱り方」を考える「叱る」と言う行動は良くない。と考えているリーダーは、「過去に怒られて嫌な思いをした」「叱られることで、いい経験をしたことがない」人かもしれません。 「叱ったら、病院を辞めてしまうかもしれない…」「スタッフが嫌な気持ちになるのでは?」と、叱った後で自分とスタッフとの関係が悪くなることばかり考えてしまうのではないでしょう。 叱り方には、スタッフが「パワハラ」と受け止められる場合もありますので、注意が必要です。
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叱り方のポイント叱り方には、次のように5つのポイントがあります。 ① 1対1で叱る ② 叱ることは、「一度に1つ」だけにする ③ 叱る際には、自分の気持ちを伝え、叱るスタッフに「どう感じますか」と聞いてみましょう ④ ミスのない行動をするには、どうしたらよいか一緒に考えます ⑤ 今後の期待を伝える |
1対1で叱る叱る場合に、注意してほしいことがあります。まず、「人前で叱らない」ことです。 人前で叱ってしまうと、たとえ、その叱った内容が間違っていなくても、叱られている人は「恥をかかされた」という思いだけが残ってしまいます。 しかし、患者さんや周囲の人、スタッフ自身の安全を脅かすようなミスは、その場で気づいてもらわないといけない場面では、その場で叱ることが必要です。そうでない場合には、人前では叱らないように注意します。
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叱る内容は一度に一つに絞る叱る内容は、一つに絞ります。複数の内容で叱ると、叱られている本人は何について叱られているのかがわからなくなります。 叱る時は、何をしたのかという事実と、行動のみを冷静に伝えます。例えば、患者さんから「家族に伝えてほしい」という要望があったことを、申し送り時にA職員が伝え忘れて、患者の家族から課長に電話でクレームがありました。 その時、あなたならどのようにA職員に指摘しますか。もちろん、申し送り時の人前では指摘はしません。 「Aさん、患者さんの家族からこんな簡単なことでクレームが入って、私は課長から今後このようなことが起こらないようなんとかしてほしいと言われています。何とかしてください」と指摘した場合、A職員からは、「すみません。今後気を付けます」という反応が予想されます。 「何とかして」とあなたに言われても、A職員は具体的にどのようなクレームなのか知らせておらず、今後どうしたらよいかを考えることはできません。 では、次のような叱り方だったらどうでしょうか。「Aさん、〇日前に患者さんから、退院後の生活や住む場所などについて相談があるので、ご家族に至急連絡してほしいとの要望があったことを、申し送り時に記録として記載していなかったことについて、課長にクレームの電話が入っています。いつもきちんとしているAさんの行動とは思えないのですが、〇日前、何かありましたか。」 |
叱り方のポイント2前回は、具体的に「叱る」場合の5つのポイントのうち、2つまでお伝えしました。 今回は、残りの3つのポイントについてお伝えします。「叱る」場合の5つのポイントは前回にも掲載していますが、再度お伝えします。 ポイント1 1対1で叱る ポイント2 叱る内容は、「一度に一つ」に絞る ポイント3 叱る前に自分の気持ちを伝え、叱るスタッフに「どのように思いますか」と質問をする ポイント4 ミスのない行動をするには、どうすれば良いかを一緒に考える ポイント5 今後の期待を伝える
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叱る前に自分の気持ちを伝え、叱るスタッフに「どのように思いますか」と質問をする叱る前にまず、自分の「気持ち」を伝えます。その際の気持ちですが、もちろん人間ですから、腹の立つこともあると思います。 ただ、そこは感情に任せるのではなく、「●●のように期待していたのですが、残念です」とか「●●まで実施してもらうよう伝えたつもりですが、うまく伝わらなくてとても悲しい」など、叱る相手にどのような行動をとってほしかったか。ということも一緒に伝えます。 叱られたスタッフは、自分のしたことを冷静に理解し、リーダーが自分のことをどのように思っていたかもロジカルに受け止めることができます。その後、「どう思いますか」と質問してみましょう。 叱る側の気持ちがわかると、叱られた側はそのような気持ちをリーダーにさせてしまったことに対する反省が生まれます。この時、何かあれば説明するはずですので、その内容をきちんと聞きます。
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ミスのない行動をするには、どうすれば良いかを一緒に考えるそうすれば、次に同じような場面に遭遇した時に、どうすれば良いかなどの対策に繋げる話し合いができます。 叱られた側は、どのような場面で何が起こったか、そのことでどのような結果になったのかを、冷静に受け止めることができるように叱ることが大切です。 改善策が一緒に考えられるということは、誰かにやらされるのではなく自分で考え、改善するための行動に変化することができます。
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今後の期待を伝える今後の行動に活かすよう改善策を考えられ、それを実行しようとする決意がスタッフから語られたら、リーダーとして今後の期待を伝えます。 例えば「今後も患者さんから、より信頼される看護師になれると期待しているので、少しずつでも良いので…」と伝えます。 叱るからコーチングへ 叱る5つのポイントは、参考になったでしょうか。叱った後に改善行動が見られれば、それ以降はフォローしなくてもいいということではありません。叱る必要がなくなれば、次の段階としては、さらにモチベーションを向上させる、コーチングへと切り替えます。 |
略歴
立教大学大学院卒業MBA取得。人材派遣会社立ち上げ、PC等教育フランチャイズ本部で人材育成に携わる。2002年4月株式会社ウィ・キャン(人材ビジネス・人材開発)、取締役に就任。1998年から、企業の立場で人材育成から病院での患者応対に関するコンサルティングを実施する。企業および医療機関における人材育成に関する企画・研修を実施。
著書
「医師・看護師が変える院内コミュニケーション」「毎日が輝くナースのマナー―決定版!患者接遇完璧マニュアル」できる看護主任・リーダーのコーチング術」共著(パル出版)他
「介護現場のクレーム対応の基本がわかる本 (New Health Care Management)」
「医療と企業経営 第6章」共著(学文社)
「ビジネスクリエーターと人材開発」共著(創成社)他