はじめに

最近、カスタマーハラスメント防止に関する講演や、原稿の執筆依頼が多くなってきています。私共にとっては大変嬉しいことではありますが、 それだけ医療に携わる皆さんが患者家族等からの無理や不当な要求に悩まされているからだと思い、それぞれのご依頼先に合わせた内容を取り入れていくよう、心掛けています。

 

 

医療従事者として…

「コンビニやレストランでは許されないことが、なぜ病院では許されるのでしょうか?」という質問を受けることがよくあります。読んでくださっている皆さんが、まず頭に浮かぶことが「応召義務」との兼ね合いです。ひょっとすると、「応召義務」よりも医療従事者としての性(良心)が最初に来るかもしれません。 無理な手段で要求をしてくる患者が、「認知症」等を患っている場合、「医療従事者として我慢するのが当たり前」という感情がまず湧くようです。実際、「このような患者さんに対応し、何度も我慢してきましたが、もう心が…」というご相談を受けることも、度々あります。 その場合、原則として「加害者がどのような状況にあったとしても、被害者のダメージは同じだから、被害者保護を優先してください」と回答しますが、皆さんそれぞれが、対応に苦慮されています。

 

 

ある日の出来事

さて、先日お昼ご飯を食べようと、急いでいるので駅前のチェーン店の中華料理屋さんに入りました。「おひとりですか?カウンターへ」と誘導され座りました。お昼を過ぎているので、店内は一人で来ている高齢者の男性が多いようでした。 注文は、今はやりのタッチパネルです。私の隣に座った高齢男性が、パネルで商品を見ながら急につぶやき出したのです。 「これは、ライスはついているの?」「あ。こっちか?」「大盛りと普通、どちらがいいかな…」「これとこれの味は、どう違うのだろう?」と。パネルに質問し、まるで会話をしているように感じたのです。 考えれば、スーパーマーケットやコンビニも無人レジへと移行され、日常生活の中で頻繁に行くところでの会話がなくなっており、独居の高齢者の話す機会は、極端に少なくなっています。 現実の私も、一言もしゃべることなくチャーハンを注文し、黙々と食べ、レジでお金を支払い、電子音の「ありがとうございました」で送り出されました。

 

 

自由にしゃべれる場所

多くの独居高齢者が、自由にしゃべれるところはだんだんと少なくなり、「病院・クリニック」と「施設」の人だけになっているのではないでしょうか? 思いのたけを言えるところが少なくなり、人との関係が希薄になる一般社会の例外として、「病院・クリニック」と「施設」が存在しているのではないでしょうか。 その結果、コミュニケーション下手の人が増加し、自分の思いをストレートに強い口調で主張してしまうのではないか。このような環境が、「ハラスメント」の原因の一つではないかと、ふと考えました。

 

世の中の動きを自分で止めることは出来ません。私たちに出来ることは、社会の動きを察知し、対策することです。また、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

濱川 博招

略歴
経営コンサルティング会社ウィ・キャン代表。顧客満足向上のコンサルティングのスペシャリストとして多くのサービス業、医療機関で実績を上げている。医療機関においては、実際の医療現場で発生した膨大な数にのぼる事例研究を通して、リスク回避のためのコミュニケーション等現場に即した研修を実施
著書「病院のクレーム対応マニュアル」「医師・看護師が変える院内コミュニケーション」「毎日が輝くナースのマナー―決定版!患者接遇完璧マニュアル」「できる看護主任・リーダーのコーチング術」人材派遣会社「儲け」のルール」「病院のクレーム 対応の基本」共著等(パル出版)